<この国はどこへ行こうとしているのか>

【毎日新聞】ニュースセレクト > 話題 - 2009.12.01
特集ワイド:'09シリーズ危機 貧困/中 <対談>湯浅誠さん×菅直人さん
http://mainichi.jp/select/wadai/news/20091201dde012040010000c.html

<この国はどこへ行こうとしているのか>

◇派遣村をつくらない
今年の暮れ、日本は「年越し派遣村」に頼らずにすむのだろうか。
政治は貧困とどう向き合うべきなのか。現政権で雇用問題を担当す
る副総理、菅直人さん(63)と、派遣村村長の経験を生かし、内
閣府参与として年末対策に取り組む湯浅誠さん(40)が語り合っ
た。【構成・遠藤拓、写真・長谷川直亮】

◇同一労働・同一賃金確立を 社会全体の設計図が必要--菅直人さん
◇生活の崩壊は社会的損失 保障と雇用創出を同時に--湯浅誠さん
菅 湯浅さんと直接お会いしたきっかけは今年1月2日。派遣村に
大勢集まって宿舎が厳しいという連絡を我が党の山井和則衆院議
員から受け、現場に足を運びました。いろいろと教え合って連携
し、私なりにできることをした。
そうした経緯があって、政権交代後の第一の課題として緊急雇
用対策に取り組むにあたり、湯浅さんにも手伝ってもらいたいと
いうことで、一緒にやっているわけです。
10月の完全失業率は5・1%。過去最悪だった7月の5・7
%からは改善しましたが、現実的な感覚でいくと状況はより厳し
くなっている。新卒者の就職内定率が厳しいことも気になってい
ます。この問題には我々も野党時代から取り組んでいますが、厳
しい状況下で十分な効果が出ていないのが現状です。
湯浅 先ごろ厚生労働省が発表した15・7%の相対的貧困率は、
2007年の調査に基づいている。あれ以降何が起きたか。サブ
プライムローン問題やリーマン・ショックがあった。相対的貧困
率はもう16%を超えているかもしれない。貧困の状況はいっそ
う悪い、それが前提となる認識でしょう。
加えての問題は今年後半に失業保険が切れる人。失業者の背後
には家族がいるので、無収入が長期化して生活が壊れていくと、
その影響は一家全員に及ぶ。だから、(従業員の休業手当などを
国が助成する)雇用調整助成金であるとかセーフティーネットの
充実、雇用創出と、全体的にパッケージとして提供されるのが大
事だと思っています。
菅 雇用調整助成金は、失業の拡大を防ぐやり方です。それから、
新しい雇用については、前の内閣で7000億円の人材育成基金
を積んであるので、それによって積極的な雇用創出をしようとし
ている。
新しいのは、「貧困・困窮者支援チーム」などいくつかのチー
ムを、政府の緊急雇用対策本部に設けたことです。今までは政策
を作り、後は役所がやりなさいと言っていたけど、それでは足り
ないので、湯浅さんに事務局長をしてもらっている。
今年は昨冬の派遣村のような形を取らなくても済むようにと考
えている。その準備できょう11月30日、「ワンストップ・サー
ビス」を試験的に行いました。行政が一つの窓口で雇用・住宅な
ど複数の支援の相談に乗る取り組みで全国77カ所、197自治
体が参加してくれました。
…●…
湯浅 貧困対策は古典的に「防貧」と「救貧」があり、ワンストッ
プ・サービスは防貧の意味合いが強い。雇用保険と生活保護の間
にある、いわば第2のセーフティーネットです。
この中には、できてまだ2カ月の住宅手当の制度もありますが、
まだよちよち歩き。でも、切れ目のないセーフティーネットを育
てるための第一歩ということに意味があります。
救貧については、生活保護が挙げられますが、いろいろな偏見
もあり、使い勝手も悪く、機能していない。
昨冬、私たちが派遣村の前に年越し電話相談会をした時に14
時間で2万件の電話がかかってきた。今年はそれ以上の人が困っ
ているのは間違いないので、防貧も救貧も、どちらも取り組んで
いく必要があります。
菅 今年は必ずしも日比谷公園に集まらなくても、困った人々をき
ちんと受け止められるようにしよう、派遣村と同じようなサービ
スを受けられるようにしよう。それが今、緊急雇用対策本部とし
ての、私や湯浅さんたちの目標です。派遣村がなくてもよりよい
対応ができるようにしたいのです。
…●…
菅 昨年は野党として、政府に働きかけてやっていましたが、今度
は自分たちが責任者。でも、何とかしなければ、という思いは変
わりません。
湯浅 同感です。人々の生活が成り立たなくなって壊れていくのは、
私は社会的な損失だと思っています。今まではその支えをできる
範囲でやっていたけれど、今は政府が国全体の規模で行おうとし
ているので、一緒にやっていくという立場です。
菅 湯浅さんの任期は12月いっぱいで、後のことはまた相談しよ
うという条件でしたね。
湯浅 私の仕事は年末までの間に何ができるのかがメーン。その後
は今は考えないことにしています。この問題は今までずっと、後
回しにされてきた経緯がある。年末までが勝負だと自分に言い聞
かせています。
…●…
菅 労働者派遣法は、(製造業派遣の原則禁止などを盛り込んだ)
改正をすることで与党3党が合意しています。次の国会で(成立
させよう)と思っています。
湯浅 従来の政府は「均衡待遇」を進め、格差のある労働条件を認
め、セーフティーネットは整備しないままでした。決して均等待
遇ではなかった。結果として貧困者が増えた。今回の改正は、そ
の反省の上に立ってだと思います。
(労働行政のあり方を審議する厚労相の諮問機関)労政審(労
働政策審議会)の議論は取りまとめの段階に入っています。今回
の3党案からかけ離れたものが出る心配もあります。そうなった
ら、厚生労働省として、あるいは政府として、どう判断するのか
を考えてもらわないといけません。
菅 派遣法を変えたら、みんなが正社員になれるのですか?とよく
聞かれます。確かに、そうなれば望ましいのですが、実際は派遣
でなく請負に戻すとか、期間工にするとか、いろんな話が出てく
るでしょう。
だからもう一段踏み込んだ政策なり対策が必要だと思っていま
す。端的に言えば、やはり同一労働・同一賃金の原則を確立する
ことです。
なぜ日本で派遣や期間工が増え、正社員が減るのかといえば、
会社にとって合理的だからです。でも同一労働・同一賃金で、派
遣の方がコストが高いとなれば、あるところまで正社員を確保し
ようかということになる。
これは一種の社会構造の変化です。同一労働・同一賃金は非常
に怖いところもあって、給料は年齢に関係なくフラットになる。
その時、子どもを高校や大学にやる費用はどうするんだという問
題がある。社会がそこまで面倒を見るんだということになれば、
フラットでもいい。単に法律を作ればいいのではなく、全体の設
計図が必要です。
湯浅 言うなれば、この日本社会は年収いくらで子育てできる国を
目指すのかということですね。日本の1世帯の年収の中央値は
448万円(厚生労働省の08年調査)です。月収40万円弱。
これで子どもを大学まで行かせられるかといえば、現実には難し
いわけです。子ども1人を育て上げるには3000万円かかりま
す。
収入をどこまで上げ、支出をどこまで下げられるのか。奨学金
などを利用し、親の稼ぎだけではなしに、学歴を積むことも一例
でしょう。それだけでなく、今、菅さんのいう同一賃金はもちろ
ん、社会保険や税金、時には寄付付き税額控除などの対策を、トー
タルに組み合わせる必要があると思います。
菅 雇用や貧困を巡る問題は政策課題ですが、それだけではすまな
いとも思います。
湯浅さんに手伝ってもらっているのも一つの象徴ですが、労働
界や経済界、自治体、NPOを含めて、社会全体が問題に取り組
まない限り、壁を乗り越えていけないというのが実感です。だか
らと言って、政府が手を抜いていいということではありませんが、
政府が頑張ってもなかなか手が届きにくいところがあったわけで
す。
他の政策と比べても、この分野は政策であると同時に、ある意
味で運動的な要素が必要だと今も感じています。

■人物略歴 ◇かん・なおと
1946年、山口県生まれ。副総理。市民運動を経て80年衆院
初当選、当選10回。社民連副代表、民主党代表などを歴任。新党
さきがけ時代の96年、連立政権の厚相として薬害エイズ問題に取
り組んだ。現在国家戦略、経済財政、科学技術の担当相を兼任。

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■人物略歴 ◇ゆあさ・まこと
1969年、東京都生まれ。内閣府参与。東京大卒。同大大学院
在学中の01年、NPO「自立生活サポートセンター・もやい」を
設立し事務局長に。03年退学。昨冬の「年越し派遣村」では村長
として活動。近著に「岩盤を穿(うが)つ」「どんとこい、貧困!」。
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by books131 | 2009-12-04 17:37 | イベント転載